人生フルーツの感想

人生フルーツを観てきました。

人生フルーツってちょっと電気グルーヴに似てますよね、響きが。

どちらも長い間いい温度といい距離感を保ちながら二人でずっとイチャイチャし続けているという共通点があるのでこじつけようと思えばこじつけられるんですけど、面倒くさいのでふつうに感想を書きます。


あらすじ

(映画.comより抜粋)


90歳と87歳のおじいさんとおばあさんを淡々と撮影したドキュメンタリーです。

今、この世代の人たちって「危ないから免許を返納しろ」だの「脳が衰えるから若者よりキレやすい」だの「豊洲新市場の土壌汚染はお前のせいだ」だのと、どうせインターネットを見てないから反撃してこないだろうと思って言われ放題じゃないですか。

自分がもしお年寄りの立場だとしてこんなこと言われたらめちゃくちゃ腹立って仲間の老人20人くらい集めて全員でマリオのコスプレしてカートで公道を爆走して居酒屋の前で溜まってる大学生の集団とかにフルスピードで特攻すると思いますね。

でも、この二人はそんな現代社会のお年寄りに対するイメージと対極のような、庭の畑で育てた作物を収穫して料理を作ったりするという実写版のジブリ映画というか、もはや「むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんがすんでいました」「ふたりはしあわせにくらしましたとさ めでたしめでたし」みたいな生活を送っているんです。

文章で表すと優雅なスローライフに見えるんですけど、農作業とか家の修復とか力のいる仕事を90歳と87歳の二人がシャキッと背筋伸ばしてテキパキこなしていく姿を見ると「これは生半可な気持ちでは出来ないな」という凄みが画面から感じられます。

とくに夫の修一さんは書いた手紙をポストに投函しに行くときに車じゃなくて自転車で移動しているんですけど、その自転車がママチャリでも電動アシスト付き自転車でもなく赤いマウンテンバイクなんですよね。

なかなか90歳でマウンテンバイク乗れなくない?
転倒したら一発アウトだし整備とかも大変なはず。

じつは修一さん、東大卒で日本住宅公団に入ったインテリの文化系かと思いきや、大学時代にボート部の主将だったらしく、90歳にもかかわらず足腰がすごいしっかりしていて、スローライフを実現するには一にも二にもまず足腰の強さだなっていうのを痛感させられました。

で、スローライフとか自然と隣り合った生活とかオーガニックとかそういうキーワードが飛び交うとどうしても宗教っぽくなったりフットボールアワー・後藤の代表作「思想が強い!」のツッコミを引用したくなってしまうはずなんですけど、この映画にはそれがまったくないんですね。

それはなぜかというと、おそらく、修一さんの「コツコツ、ゆっくりと、時間がかかっても自分の手でやる」という信念が、神もしくは超現実的な存在に救いを求めてとにかくすぐに何とかしてもらおうという宗教の在り方とまったく正反対だからだと思うんですよね。枯山にドングリを撒いて雑木林を育てたり、庭に枯葉を撒いて畑の土にしているうちに、待ちきれなくてふみカス自殺しちゃうと思うし。

あと、そういう信念を他人に押しつけたり自己主張したりしないところもいいなと思いました。

ただし、周りから求められると話はべつで、例えば孫に「シルバニアファミリーのお家がほしい」と頼まれると建築家のスキルをフル導入して木で5階建てくらいの精巧なミニチュアハウスを造ったり、精神病院の施設の設計についてアドバイスを求められると90歳にもかかわらず2〜3日で完璧な設計図を仕上げるという、そして、それらをいつ頼まれてもいいようにつねに準備を整えているという姿勢が、乞われたときだけ力を解放する凄腕のヒットマンのような、「お前も能力者だったのか!?」みたいなアニメのようなカッコよさで痺れました。

「コツコツゆっくりと、時間がかかって自分の手でやる」という信念を、本当に一生をかけて、自分の人生で以って示したという記録でした。

あと、二人は庭の畑に何が植えてあるのかわかるように黄色く塗った板に黒いペンで作物の名前を手書きして余白にちょっとした一言が添えてある自作の看板を立てていて、側から見ると完全にヴィレッジヴァンガードのPOPに見えるんですけど、それなのにまったくスベってないのすごいなと思いました。